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【宇宙開発】地球観測:現状の限界,そして未来

事象発生日:2018-12-18

記事公開日:2018-12-18

アクセス数:7297

この記事は,東京大学航空宇宙工学科/専攻 Advent Calendar 2018向けの記事です.

宇宙から地球を観測する地球リモートセンシングに焦点を当てて,現状のシステムの限界と,将来について書いてみました.

 

トップ画像の出典はこちら

1.はじめに

東京大学航空宇宙工学科/専攻 Advent Calendar 2018の12月18日の記事です.

 

 

12月18日...,Perlの誕生日ですね! 今年で31歳です!!

みなさん積極的にPerl使っていきましょうね!!!

 

 

と,お約束が終わったので,本題に入ります.

今回は,地球観測(地球リモートセンシング,地球リモセン)の現状の限界と未来について,僕が行ってる研究なども交えながらご紹介していきたいと思います.

2.地球リモセンとその分類

地球リモセンとは?

リモートセンシングとは,リモートでセンシング,つまり遠く離れたところから,対象物に直接触れずに形状や性質を観測する技術のことを言います.

そして,人工衛星をつかって地球を宇宙から観察するのが,地球リモセンです.

簡単に言えば,宇宙からカメラやそれに類するものから地上の画像を撮ることです.

 

日本の宇宙機関であるJAXAの地球リモセン衛星だと,地上の細かな情報を取得できる合成開口レーダ衛星のだいち2号 (ALOS-2) や,温室効果ガス観測衛星のいぶき2号 (GOSAT-2) が有名ですね.

だいち2号 (ALOS-2) [画像出典]
いぶき2号 (GOSAT-2) [画像出典]

衛星軌道からみた地球リモセンの種類

普通,地球リモセンを分類するならば,波長などで分類することが多いです.

可視光でみるのか,電波でみるのか,赤外線をみるのか,などなど.

 

今回は波長ではなく,軌道で分類してみたいと思います.

 

 

① 低軌道 (LEO) からのリモセン

一般的なリモセン衛星は,高度およそ数100kmの低軌道 (Low Earth Orbit: LEO) を周回しています.

理由は簡単で,できるだけ地上に近いところを回ったほうが,高画質(高解像度)な画像を得やすいからです.

 

最近だと,Canon電子がEOS 5D Mark ⅢとPowerShot S110とかいう民用デジタルカメラで衛星をつくって,サブメートル級の分解能の画像を公開したことが話題になりました,

 

ところが,この低軌道からのリモセンには,1つ大きな問題があります.

それは,時間分解能が悪い,つまり,高頻度に観測できない,ということです.

 

下に,典型的な低軌道を周回するリモセン衛星の軌道の動画を貼ります.

 

NASA's Earth-Observing Fleet, February 2015 [出典]

この動画からもわかるように,地球もぐるぐる,衛星もぐるぐる.

ある衛星が東京上空を通過して東京を撮影したとしましょう,さて,次にこの衛星が再び東京の上空にやってくるのはいつでしょうか?

 

典型的な値だと,およそ1週間です.

したがって,低軌道からのリモセンは,画質がいい(空間分解能が高い)が,頻繁には撮影できない(時間分解能が低い)という特徴を持っているのです.

 

 

② 静止軌道 (GEO) からのリモセン

対称的に,気象衛星などは,高度およそ36,000kmの静止軌道 (GEO: Geostationary Orbit) を周回しています.

 

静止軌道は,地球の自転と同じ周期で周回できる軌道で,地上から見ると衛星は止まって見えます.

なので,下の映像のように,定点観測できる(ずっと同じ場所を見続ける事ができる)のです.

 

ひまわり8号 地球全体動画 [出典]

しかし,高度36,000kmの静止軌道,その高度は低軌道のおよそ100倍,つまり画質は100倍劣化してしまいます.

このように,静止軌道からのリモセンは,高頻度に観測できる(時間分解能が高い)が画質は悪くなってしまう(空間分解能が悪い)という特徴があるのです.

 

 

 

つまり,それぞれの軌道からのリモセンは,下表のようなトレードオフの関係にあります.

空間分解能(画質)時間分解能(頻度)
低軌道 (LEO)
静止軌道 (GEO)

3.現在の地球リモセンの限界

地球リモセンでは,画質重視の低軌道からの観測と,観測頻度重視の静止軌道からの観測の2種類あるというお話をしました.

現状では,この “高解像度観測”“高頻度観測” の両立を実現できるシステムがありません.

 

“高解像度観測” と “高頻度観測”の両立がもっとも求められている分野とは...,そう,災害監視です.

 

例えば地震が発生した時,

この地区は被害が大きそう,とか

ここは大型車両が入れそうだな,とか

を確認するために,発生直後に被災地の高画質な画像がほしいですよね.

 

でも,たまたま衛星が被災地の上空にいない限り,発生直後の写真を直ちに撮影するのは無理です.

 

地震,津波,山火事...etc,このような災害監視(とくに初動対応)には,人工衛星はあまり貢献できていないのです.

 

 

東日本大震災の初動対応において,人工衛星による情報収集の実績を見てみましょう.

東日本大震災における情報空白と衛星観測の関係
東日本大震災における発災後の経過

,などによると,東日本大震災が発生して当日にJAXAのだいち (ALOS) や国際災害チャータの観測が始まりましたが,最初に被災地を撮影できたのは地震発生の次の日(3/12)であり,そして,3/12のうちに画像が地上局へダウンリンクされ公開されたのはたった2件でした.

そもそも,高解像度な撮影が可能な低軌道周回衛星が被災地の上空を通過するのも稀ですし,そしてそれらがアンテナがある地上局上空を通過するのもまた時間がかかります.

 

そんなこんなで,災害時の人命救助リミットである72時間を考えると,被災地状況把握は災害発生の即日に行いたいけれども,既存の観測衛星網では到底対応できないことがわかります.

4.“高解像度観測” と “高頻度観測”の両立

災害監視に欠かせない“高解像度観測” と “高頻度観測”の両立を達成すべく,いくつかの計画が動き始めています.

ここでは,日本で進められている別のアプローチの2つを紹介します.

AxelGlobe (AXELSPACE社)

日本の人工衛星ベンチャーであるAXELSPACEが進めているAxelGlobeという計画は,50機の人工衛星を低軌道にばらまいて(コンステレーションを組んで)世界中を高解像度に1日1回撮影しようという計画です

単純に衛星の機数を増やすことで,時間分解能を向上させようとう発想で,欧米でも似たような計画がいくつもあります.

 

ただ,50機あげてもまだ1回 / 1日なのは,ちょっとしんどいですよね....

 

AxelGlobe [出典]

JAXAによる,巨大口径をもつ静止軌道衛星

AxelGlobeは,高画質な低軌道で,機数を増やして観測頻度をあげようとしましたが,こちらはその逆です.

リアルタイムな観測ができる静止軌道からのリモセンで,解像度をあげたものをつくろう,という発想です.

 

しかしながら,光学系の解像度の限界は回折限界で与えられますので,結局の所,望遠鏡の解像度を上げるには,口径(鏡のサイズ)を大きくする他はありません.

そこでこのJAXAの計画は,口径が3.5m程度の超大型望遠鏡を作ってしまおう,そして,それを静止軌道に置こう,というものです.

(静止軌道で高頻度観測を実現し,さらに巨大望遠鏡により解像度も改善)

 

 

はたしていくらかかるんですかね....気になるところです.(似たようなコンセプトのAirbusのGO3Sという衛星は,数1000億円でした(笑))

 

(そういえばこの計画,鏡を磨くのはNikonだそうですが,その精度を測定するのはCanonらしいですね.)

分割主鏡を有する口径3.5mクラスの静止地球観測衛星

5.さらに別のアプローチ

最後に,今すぐに実現できるものではないですが,実現できたらとてもすごいものができて,さらに応用先も広いアプローチを紹介します.

 

それは,合成開口という技術をつかった方法です.

合成開口とは,いくつかの開口(望遠鏡でいう鏡)を組み合わせることで,仮想的な大口径を形成して,解像度を飛躍的に向上させようとする技術です.

 

下の図のように,いくつかの鏡を持った衛星と撮像素子を持った衛星を極めて高精度に制御し,仮想的にでっかい望遠鏡を作ってしまおう,という構想です.

(ちなみに,下のCG CAG図は僕が作りました.)

 

 

先程のJAXAの望遠鏡よりも遥かに大きい望遠鏡が(制御できれば)作れるので,分解能をあげにくい赤外線などでも高い空間分解能をもった光学系が作れます.

これを静止軌道に置くことによって,極めて高いレベルでの,高解像度観測と高頻度観測を両立できるはずです.

しかしながら,制御精度要求が極めて高く,むこう10年は実用化されなさそうですが....(研究対象としてはとてもおもしろい.)

超小型衛星フォーメーションフライトによる合成開口望遠鏡

この合成開口望遠鏡の技術が確立すれば,どんどん望遠鏡の径を大きくしていくことができるので,系外惑星の直接観測などといったサイエンスミッションにも応用できることも期待されています.

6.おわりに

今回の航空宇宙アドベントカレンダーでは,地球リモセンに焦点を当ててみました.

そして,画質(解像度)と観測頻度(時間分解能)を両立するのは難しいことと,この難題を突破しようとする試みを紹介しました.

 

 

あー,研究せねば....卒業できなくなってしまう....

7.出典

キヤノン電子株式会社. 宇宙関連事業. Retrieved December 18, 2018, from https://www.canon-elec.co.jp/space/
Nobutada Sako. Utilizing Commercial DSLR for High Resolution Earth Observation Satellite. 32nd Annual AIAA/USU Conference on Small Satellites, 2018.
中村 太一. 衛星による災害観測能力の総合的評価について(第一報). 日本航空宇宙学会論文集, Vol.63, No.4, pp. 143–149, 2015. Retrieved December 18, 2018, from https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsass/63/4/63_63_143/_article/-char/ja/
中村 太一. 衛星による災害観測能力の総合的評価について(第二報). 日本航空宇宙学会論文集, Vol.65, No.3, pp. 103–110, 2017. Retrieved December 18, 2018, from https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsass/65/3/65_65_103/_article/-char/ja/
AXELSPACE. 新時代のインフラ、AxelGlobe. Retrieved December 18, 2018, from https://www.axelspace.com/axelglobe/
S. Yasuda, et al., Thermal-structural analysis of geostationary Earth observation satellite with large segmented telescope. Proc. SPIE 10781, Earth Observing Missions and Sensors: Development, Implementation, and Characterization V, 2018. Retrieved December 18, 2018, from https://doi.org/10.1117/12.2324429
鈴本 遼, et al., 超小型衛星フォーメーションフライトによる合成開口望遠鏡の基本設計, 第62回宇宙科学技術連合講演会, P51, 2018. Retrieved December 18, 2018, from https://www.jsass.jp/conference/

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