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新卒入社したCookpadを退職しました(前編) ―D進とIT企業への入社と退社―

事象発生日:2022-02-28

記事公開日:2022-04-25

アクセス数:16714

大好きだったクックパッド株式会社を,2022年2月末日をもって退職しました.

2018年にはじめてインターン(アルバイト)として働き始め,そして2020年には新卒として正社員入社させていただきました.

 

宇宙工学の博士後期課程の学生と,IT企業の新卒社員という二重国籍状態がここで終わりました.

3年前の人生の選択が1つの節目を迎えたので,その振り返りを二編に渡って書き残したいと思います.

 

なお,トップ画は新卒内定式の内定者懇親会後に記念パーカーをかぶり恵比寿を練り歩く同期らです.

はじめに

Cookoadを退職したのが2月末日,そしてこれを書いている今日は4月.(Cookpad で働いたことのある人ならわかると思いますが,)生きていく上で必要な情報のすべてが詰まっており,生活に彩りを与えてくれていた社内 Wiki と社 Slack という場(コミュニティ)へのアクセス権を失った "ロス" と,その後の生活(博士3年と起業)で忙殺されていたことなどから,この記事を書けずじまいでした.

 

とはいえ,今から3年前に決断した,博士進学(通称, "D進")と社会人の両取りという選択が節目を迎え,今この瞬間の "結果" は書き留めておかねばならないと思っていました.それは別に誰かのためではなく,将来自分自身がこれを読み返すことができるように,です.

 

少し文章が長くなりそうなので,前編としてここでは,Cookpad での経験や学びについて,そして,後編では,社会人博士としての振り返りを書こうと思っています.

後編はこちらです.

Cookpad入社の経緯

現在の僕は,工学系研究科 航空宇宙工学専攻の博士後期課程の3年(2022年4月現在)の学生です.つまり,宇宙工学を研究する工学系学生です.

 

そんな一介の工学徒が,自らの研究とは全く関係のないIT企業である Cookpad に入社した経緯は,3年前の次の記事に詳細があります.

 

簡単に経緯をまとめると,

研究室の知的環境が心地よく,この環境(=研究室)にもう少し身を置きたい.
とはいえ,30歳近くまで社会に出ないという選択は取りたくはない.
枯れた技術で開発サイクルの遅い宇宙開発と真逆の,最先端の技術で速いサイクルを回す開発をしたい.

といったところです.

 

そして,

ハードウェアも絡めた領域で,すばやくプロトタイピングを繰り返しながら料理の課題解決を追求してほしい

「クックパッドの ◯◯ を作ったのは{僕}」というような,世界に自慢できる説得力のあるプロダクトを生み出してほしい

という期待を頂き,研究開発部のリサーチエンジニアとして採用されました.

Cookpad退職

本当は,少なくとも博士課程の3年間は在籍していようと思っていました.また,後述するように,Cookpad の社風や環境,仲間は大好きであり,もしも僕の時間と体力が許すのであれば,もっと在籍したかったです.

しかしながら,現実は想定通りには進みません.というか,そもそも僕が Cookpad に新卒入社するなんて,大学入学時はもちろん,修士課程進学時にだって考えてもいませんでした.人生なんて想定できるものではないのです.

 

話を戻して,退職について.退職理由ですが,30%は職場環境が変化したこと,次の20%が自分自身の能力の限界を感じたこと,残りの30%が人生の優先順位に変化があったこと,最後の20%はここに書けないようなもろもろです.

職場環境の変化

Cookpad では,ソフトウェアエンジニアや,新規開発プロジェクト,採用など,様々な仕事をやらせていただきました.なかでも,僕に最も期待され,僕がもっとも成果を出さねばならない仕事は,ハードウェアを絡めた料理環境の課題解決,言い換えると,ハードウェアとソフトウェアの中間レイヤから僕自身が個人的に切望している世界の実現を目指した研究開発,でした.

 

2020年度は,社内に6つあるキッチンのうちの1つをほぼ専有させてもらい,改造を繰り返し,様々な研究開発,それこそ目標としていた速いサイクルでの開発を行っていました.そんな中,オフィス移転が発表されました.慣れ親しんだキッチンやラウンジのある恵比寿から,みなとみらいへの移転です.オフィス移転については,思うところは色々ありましたが,僕にとって最もクリティカルだったことは,新オフィスの社内には自由なキッチンがなかったことです.

 

自宅キッチンや外部の代替場所の確保など,様々な環境を模索しましたが,以前のような研究開発サイクルを回せる場は見つかりませんでした.やはり,設置したコンフィグを暫くの間そのままにしておくことができ,すぐに他の社員のみなさんと議論できる場は貴重でした.

他にも,オフィス移転前にはランチを皆といっしょにつくったり,業務後に社内キッチンでわいわいできていた,という場としても,社内キッチンに対する思い入れは深いものでした.

研究開発部の僕ともう1人の同僚でほぼ専有していた社内キッチン

自分の能力の限界

端的に言うと,研究開発部で "大きな" 成果を上げる実力がないことを悟ったからです.

 

僕に求められていたことは,小さな成果の積み重ねではなくブレークスルーを伴う大きな成果でした.僕にはハードウェア側中心にソフトウェア側へ伸びる領域と物理現象への理解という部分に強みがあったものの,インパクトの大きな PoC を回すには物理領域のみのスキルでは足りず,それを利用者にどう見せるかといった部分や事業価値的な観点,そして,最低限の mockup(これは,例えばデバイス制作のみならず,スマホアプリケーションなども含む)を実装する技術が必要でした.研究開発部や並行して行っていた他部署での業務を通じてこのようなことを実感し,そして自分の強み領域の周辺を知るための社内留学もさせてもらいましたが,結論として,あぁ,まだまだ経験値が全然足りないなぁと思うに至りました.

 

僕自身が強い関心をもつ,料理とその周辺に関する課題解決のための "研究開発" に対しては成果を出せました.一方で,最も求められていた,それを説得力のある価値あるプロダクトとして世に送り出すことまでは,実現することができなかったのです.

人生の優先順位の変化

そして最後の理由がこれです.

Cookpad という会社は今でも大好きです.しかし,今この瞬間,より時間を使いたいことができてしまったからです.まだまだこの会社で皆と一緒に働くつもりでしたが,世界が僕の予想よりも少し早く動いてしまい,後述することにより多くの時間を使いたくなってしまいました.流石にこのままではいろんなことが保たない,何かを捨てなければ,となってしまいました.一日が,朝昼晩それぞれ12時間ずつ,計36時間あれば,退職せずに済んだのになぁ....と思うばかりです.

 

博士3年となった今,もちろん博士論文には時間を執筆せねばいけません.博士論文,それは工数見積不能,成功確率見積不能,リターンの大きさ見積不能,ってやつです.とはいえ,これについては,インターン時代からわかっていたこと(つまり直接的な退職要因ではない)です.

本質的なのは,ArkEdge Space Inc. の起業のほうです.これまでずっとやってきた人工衛星を社会実装していくために,起業を含めた活動を2年以上前から行っていました.ありがたいことに,これが想像以上の速度で進んでいます.少なくともあと数年はこれを生活の中心にやっていきたいと思うようになってしまいました.

経験と学び(と挫折)

新卒として Cookpad に入社できて,本当に良かったです.3年前の決断を,今でも自身を持って支持できます.

このことについては,将来の自分というより,一緒に働くことができた皆さんに一番伝えたいことで,細かい話は社内のブログに残してあります.

 

先程もリンクを張った『』にも記した通り,ソフトウェアエンジニアとして精通している他の新卒とはバックグラウンドが異なっていたり,働き方に僕都合での制約があったり,内定を頂いた当時と新卒入社時でハードウェアを扱う上での社内上の変化があったりと,社員の方々には何かと色々とご面倒をおかけしていました.新卒エントリー時は,「そもそもなんで Cookpad なのか?」と驚きをもって受け止められていました(僕としては,それこそ論理的帰結にて Cookpad に入社したいと思っていたわけですが).

そんなわけで,会社からは「入社しても自身の成長につながらないのではないか?」「成長につながらず,新卒の成長機会を潰してしまうことは社会的責任があり困る」などと言われましたし,人事の方々からは,入社前は「ほんとに入ってくれるのか?」「入って大丈夫なのか?」,入社後は「うまくやってけてるか?」「楽しく(元気に?)やってけてるか」などと,とても心配をおかけしていました.

 

でも,大丈夫でした.(給与に見合うだけの貢献ができたかどうかは自信はないですが)とても成長することができました.料理に対する考えや知見も広がりました.料理環境においてできること・難しいことなどの勘所も付きました.研究開発部で技術的な成長もありました.それ以外にも,仕事の進め方,人の巻き込み方・巻き込まれ方,組織としての意思決定やその中での立ち振舞について,事業部的な仕事の仕方も知れました.仕事をする上での自走力も付きました.優秀なソフトウェアエンジニアの方々との仕事を通じて,自分とソフトウェアエンジニアの世界の界面は拡張され,彼らが見ている世界を垣間見ることもできました.

 

そう,Cookpad に新卒入社したという選択は,純粋な就職活動という文脈から見ても,自信を持ってよかったと断言できます.そして,これは後編でのトピックなので詳細はそちらで書きますが,社会人博士という文脈においても(もちろん犠牲になったものや後悔の残ることはありますが)成功でした.

 

先述した通り,現時点での自らの限界もたくさん感じました.悔しいと思う反面,それに気づけたことも,また学びです.

世の中にインパクトのあるプロダクトを出すために,ハードウェア要素,ユーザーに見せる部分のソフトウェアやアプリ,そしてそれらのつなぎ込み,さらにはサービス設計といったことのすべてができないと PoC を回しきれません.確かに僕はその一部はできたかもしれません.ただ,首尾一貫してはできませんでした.独力でできないのであれば,自らリードして,他人を巻き込んで進める必要があります.そこもとても難しかったです.プロダクトとして "勝てる" ビッグピクチャを思い描き,それを他者に共有し,共感してもらい,必要な技術選定と開発・検証を行っていくこと,そういった能力を磨いていかないといけないなと痛感しました.いや,この歳でこの経験をさせてもらえたことがとても貴重でした.

ソフトウェアエンジニアとしての限界というと語弊がありますが,あるソフトウェアの技術領域における自分自身の立ち位置についても強く認識できました.そもそも,Webなどには精通してはいませんでしたので,現場で直ちにバリューを出せるわけはないものの,今後の自分の身の振りを考えるための大きなきっかけとなりました.これまで主に扱っていたハードウェアに近いソフトウェア技術とは別世界の先端的なWeb技術に触れられ,そのエンジニアと一緒に仕事ができたことは,僕の "ソフトウェア思考" に大きな影響を与えました.

 

退職が決まってから研究開発部の上長との会話で印象的だったことを記しておきます.

今後伸ばして行くべきところは,

癖のようにいろいろなものをアウトプットしてほしい.他の人がそれを見て,新しいコラボレーションが生まれるかもしれないし,新しい仕事が出てくるかもしれない.
今後もソフトウェアエンジニアについても気にし続けてほしい.ハードウェア,ソフトウェア(WebでもバックエンドでもML(機械学習)でもなんでもいい),いろいろな軸を重ね合わせて,唯一無二の No.1 のエンジニアになってほしい.
自分の置かれた場所を鵜呑みにせず,視野の広い視点で物事を考えると良い.また,自分の技術をつかったコラボレーションがもっとできるといい.自ら積極的に他人を巻き込みより大きなことをして欲しい.そして,そこでその他人が成果を出せるように仕事を振ったりできるようになって欲しい.

などだそう.概ね自己認識とあっていますが,改めてこういった指摘をしてくれるのはありがたいものです.

 

一方でこんなことも言われました.

とにかく楽しかった.これまではMLしかやったことがなかったので.
"もの" をつくっている,という技術的成果が Cookpad では新鮮で,大きな取り組みだけではなく,細かな小さなハードウェア的開発も面白かった.
そういうのが,これまで理屈として,夢物語としてあったものを,形のあるものとして持ってきてくれて,まさに研究室にいる感じで,研究開発部の新しいカタチが見えた.
そして,これまで机上の空論ばかりだったものが,ディスカッションを通じて具体化された.何が難しいのかなどといったことに対する解像度が増えた.
また,その物理的知見に基づく他部署への貢献は,社内支援ができるという部の目標のエビデンスとなった.

嬉しいですね.

 

そして最後に,「Cookpad の人間に届くような大きな成果を出してくれ.僕は SNS などやってないけど,ここまで届くと嬉しい.どこかで会ったとき,「最近どうですか?」ではなく,「最近 XXX やったんだってね!」って言われるように頑張ってほしい.」というエールを頂きました.

Cookpadのある生活

前編は,少し思い出話をして締めくくろうと思います.

もちろん,(公開のされていない)業務にかかわる思い出は書けないので,それ以外で.

 

やっぱり,エンジニア,デザイナ,事業部,バックオフィス,みんな何かしらの形で料理を愛している職場はかけがえのないものでした.

何の変哲もない普段のランチや仕事終わり,そしてチキチキという技術部飲み会や有志での日本酒会など,様々な場でたくさん美味しいものを作って食べて,コミュニケーションしてきました.クックパッドマートという生鮮 EC プラットフォームサービスができてからは,その自社サービスを使って珍しい食材や上質な食材を調達して食べたりしていました.みんな自社サービスが好きでした.

日本酒会で僕が「研究開発部なんだから!!」と笑いながら湯と酒の両方の温度を測りながら熱燗を作っていたのが懐かしいです(笑)

仕事でもたくさんの料理をしました.

一番上達したのは間違いなくからあげですね.そして一番思い入れが強いのは肉じゃがです.

この写真は,日没直後に職場である恵比寿ガーデンプレイスを出て,目黒駅経由で東京大学に向かうところです.オフィス移転前は何度もこの道を歩きました.

そして,これは専有していたキッチンからの眺めです.深夜,ほぼ社員が帰宅したオフィスで,夜な夜な一人で開発するのが好きでした.閉店間際の三越で安価に買える高級弁当を食べながらね.

そして最後に.移転した先のオフィスからの眺めです.まさにみなとみらいのど真ん中でした.

ふと,またここに戻ってきたいな,と思うことがあるものです.

 

 

後編はこちらに続きます.

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